昨日泣き腫らしたまぶたが重い。
忙しくて、三日ぶりに来た学校は周りの視線がうざったい。
先生も友達も友達じゃない人も、みんなわたしを気遣わしげにちらちらと見ている。
それもこれも、真っ青な顔で教室に駆け込んできたお母さんが全部いけない。
ちょっとお父さんが死んだくらいであんなに取り乱して、おかげでつられてわたしまで皆の前で泣きだしてしまったじゃないか。これじゃあわたしが今まで築き上げてきた、いつでも気丈で冷静なわたし像がめちゃくちゃだ。どうしてくれる。
隣の席のゆうちゃんの、今にもわたしの代わりに泣きだしそうな眼差しを避けるように窓の外へと視線を向けた。
馬鹿みたいに青い空。
わたしはもう半袖を着ている。
昨日は黒いスーツですごく暑かった。
汗なのか涙なのか分からないほど顔はぐしゃぐしゃだった気がする。
ふとわたしの目の前を紙飛行機がよぎった。
左の窓枠から右の窓枠へ、ふんわりゆったり飛び去った。
その先はカーテンに遮られ、墜ちたのかどうかは分からない。
隣の教室の誰かが退屈まぎれにとばしたんだろう。
暇な奴。
わたしみたいな。
教壇に立つ先生は時折わたしに意味ありげな視線を寄越す。
「誰か分かる人ぉ」
普段は言わない癖に、そんなことを言ってわたしの注意を引こうとしてる。
わたしは至極当然のように窓の外を眺め続ける。
先生は結局クラスいち成績の良い鈴木を指名した。
いつものことだ。
すると、また左の方から紙飛行機が飛んできた。
何の変哲もない、折り方に微塵も工夫が無い、極平凡な紙飛行機。
さっきと殆ど変わらず、そのまま右の方へ飛んで行った。
ただ違いを挙げるとするならば、
「誰、いまの」
何か乗ってた。
小さい人間みたいに見えた。
わたしは真相を確かめるべく慌てて窓枠から上半身を乗り出した。
蹴倒された椅子と机が、平穏だった教室中に騒々しく音を響かせる。
「若葉さんッ!?」
先生が叫ぶ。
教壇から走って来てわたしの服を掴んで窓から引き離そうとする。
「早まっちゃ駄目よ!!」
わたしは必死の先生に抵抗できず、先生を下敷きにする形で教室内に尻もちをついた。
その直前、視界の端で捉えた紙飛行機。
そこに乗っていたのは、お父さんだった。
多分。
PR