たまねぎ。
てっぺんと根っこを包丁で切り落とし、ゴミ箱の上で茶色の表皮を剥く。
細かく千切れた茶色の表皮を水で軽く洗い流した後、それをまな板の上に乗せた。
「ふとんがふっとんだ」
ぼそっと呟いてから人差し指でたまねぎをつつく。
一瞬ののち、ぱらり、と糸が解ける様にたまねぎがみじん切りになった。
これがぼくのろっこん。
『食べ物をみじん切りにする能力』を備えている。
特に名前は付けていない。
発動条件は寒いギャグを言うこと。
それともうひとつ。
「うああぁかゆいぃ」
ぼくはぼりぼりと首筋をかきむしる。
もうひとつの条件は、ろっこん発動後に体の一ヵ所が死ぬほどかゆくなることだった。
まるでそこを流れるぼくの血液そのものがかゆみを帯びているみたいな激烈なかゆみ。
掻いても掻いてもおさまらない痛痒がぼくを苦しめるのだった。
新月の夜。
まっくらで、街灯がスポットライトみたいに見える夜。
ぼくは町をふらついていた。
耳にはイヤホン。
コードの先は携帯ミュージックプレイヤ。
ギンギンに歪んだベースがぼくの鼓膜を突き破り脳味噌を掻き回している。
今夜ぼくは新境地に至るはずだ。
大丈夫。
ぼくならだいじょうぶ。
何度も実験はしてきたんだ。
待ち合わせ場所に到着した。
彼女は先に来て待っていた。
紺色のワンピース、闇に融けてしまいそうな。
一緒にぼくを手伝ってくれるその彼女だ。
「おそいよ」
「ごめん、マッターホルン?」
そう言って、ぼくは彼女の胸を人差し指で突いた。
* * *
即興二次小説↑ここで書いたもの。
制限時間15分
お題:かゆくなる血
ジャンル:らっかみ(PBW)
自己紹介だけじゃつまらんのでとりあえず置いときましょう。
アゥフヴィイダァゼエン
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