赤いネットに入った中から無造作に一つ玉ねぎを取りだした。
よく研いだ包丁を使ってあたまと根っこを切り落とす。
半分に割って、おしりの部分に三角形の切り込みを入れ、一枚一枚がバラけやすいようにした。
茶色い表皮をゴミ箱の上で剥いていく。
断面に残った表皮のかすを水で洗い流した。
半分にした玉ねぎ、そのうちひとつをまな板の上に乗せ、僕は呟く。
「ふとんがふっとんだ」
そうして、つやつやと真珠みたいに光っているそれをちょん、と指でつついた。
ぱらり、と何の前触れもなく玉ねぎがみじん切りになって小さく山をつくる。
これが僕の持っているちから。
『たべものをみじん切りにする能力』
使う時に寒いギャグを言う必要があるのが難点といえば難点。
でも別に他の人の前で披露することもないし別にどうでもいいことだった。
他にこういう能力がある人間に出会ったことはないけれど、多分いるんだろう。
なんの変哲もない僕みたいな人間ですら持っているんだし。
きっともっと使いどころもあってカッコいい能力だってあるはずだ。
「……やっぱつまんないなコレ」
呟いて、僕はもう半分の玉ねぎもまな板に乗せる。
包丁も持つ。
最初に落としたあたまと根っこの断面と垂直な方向に端から切り込みを入れていく。
決してスライスしてはいけない。
スッ
とん
スッ
とん
一定のリズムを刻みながら僕は玉ねぎを刻んでいく。
「うん、よし」
まるで歯の詰まった櫛みたいな見た目になったそれを90度回転させる。
そうしてまた端から等間隔に、今度は完全にスライスするように、包丁を入れていく。
少し目の粗い玉ねぎのみじん切りの山が出来た。
僕はさっき能力で作った山と合わせてさらに細かくみじん切りにしていく。
左手で刃の先を押さえ、右手で柄を上下させる。
裁断機の要領だ。
ときどきまな板の上に散らばった欠片を集め、執拗に刃の上下を繰り返す。
だんだんと玉ねぎがペースト状に水気を帯びてきた。
もはや原形をとどめていない。
「ふう」
僕はそれを包丁の腹にまとめて乗せる。
「たのしかった」
出来上がった玉ねぎペーストはゴミ箱の餌にした。
* * * *
前半部分改作
趣味:みじん切り
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