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9をめぐる

2024.11.22 Fri 「 [PR]
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2013.12.23 Mon 「 乗客習作
昨日泣き腫らしたまぶたが重い。
 忙しくて、三日ぶりに来た学校は周りの視線がうざったい。
 先生も友達も友達じゃない人も、みんなわたしを気遣わしげにちらちらと見ている。
 それもこれも、真っ青な顔で教室に駆け込んできたお母さんが全部いけない。
 ちょっとお父さんが死んだくらいであんなに取り乱して、おかげでつられてわたしまで皆の前で泣きだしてしまったじゃないか。これじゃあわたしが今まで築き上げてきた、いつでも気丈で冷静なわたし像がめちゃくちゃだ。どうしてくれる。
 隣の席のゆうちゃんの、今にもわたしの代わりに泣きだしそうな眼差しを避けるように窓の外へと視線を向けた。
 馬鹿みたいに青い空。
 わたしはもう半袖を着ている。
 昨日は黒いスーツですごく暑かった。
 汗なのか涙なのか分からないほど顔はぐしゃぐしゃだった気がする。
 ふとわたしの目の前を紙飛行機がよぎった。
 左の窓枠から右の窓枠へ、ふんわりゆったり飛び去った。
 その先はカーテンに遮られ、墜ちたのかどうかは分からない。
 隣の教室の誰かが退屈まぎれにとばしたんだろう。
 暇な奴。
 わたしみたいな。
 教壇に立つ先生は時折わたしに意味ありげな視線を寄越す。
「誰か分かる人ぉ」
 普段は言わない癖に、そんなことを言ってわたしの注意を引こうとしてる。
 わたしは至極当然のように窓の外を眺め続ける。
 先生は結局クラスいち成績の良い鈴木を指名した。
 いつものことだ。
 すると、また左の方から紙飛行機が飛んできた。
 何の変哲もない、折り方に微塵も工夫が無い、極平凡な紙飛行機。
 さっきと殆ど変わらず、そのまま右の方へ飛んで行った。
 ただ違いを挙げるとするならば、
「誰、いまの」
 何か乗ってた。
 小さい人間みたいに見えた。
 わたしは真相を確かめるべく慌てて窓枠から上半身を乗り出した。
 蹴倒された椅子と机が、平穏だった教室中に騒々しく音を響かせる。
「若葉さんッ!?」
 先生が叫ぶ。
 教壇から走って来てわたしの服を掴んで窓から引き離そうとする。
「早まっちゃ駄目よ!!」
 わたしは必死の先生に抵抗できず、先生を下敷きにする形で教室内に尻もちをついた。
 その直前、視界の端で捉えた紙飛行機。
 そこに乗っていたのは、お父さんだった。
 多分。
 
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2013.11.16 Sat 「 私の特技習作
私が最初に吐き出した魚は、たしか金魚だった。


つづきはこちら
2013.07.03 Wed 「 塔 1習作
私が初めて殺めた人間は私の母親だったと記憶している。
それはちょうど今日から5475日前、私が生まれたその瞬間のことだった。私が生まれて初めて見た光景は私を抱き上げる母親らしき女性の頬笑みであり、二番目に見たのはその女性が私を抱いたまま事切れる様子だった。
 そんな生まれた瞬間の光景など覚えているはずがないと思われるかもしれないが、私は確信を持って覚えていると言える。なぜならそれが、私が唯一見た世界の光景だからだ。私が世界を失う前に魂に刻みつけた唯一の光景だからだ。
 私の瞳は呪われている。
 私はまばたきをひとつするだけで、その視界にあるすべての生き物の命を奪うことが出来る。
 『幽冥の暗渠<カメラオブスクラ>』と呼ばれた私を迎え入れたのは、その忌み名に相応しい明かり一つない部屋だった。光の中に生まれた私は闇の中で育ったのだ。
 人の身に生まれながら人とともに歩めぬ運命を負わされた私を、それでもこの集族<トライブ>の人間たちが殺さなかったのは何故なのか私には分からない。しかしただ闇の中飼われていただけであっても、今日まで命を奪わなかった彼等に私は感謝していた。
 生まれてから5475日。人間が太陽と季節を失う前の数え方をすれば丁度15年経った今日、私はひとりの成人として認められることになる。そして私はこの集族から去ることになる。5475日を迎えた人間は成人とみなされ、集族を構成する一員と認められる。
 それがしきたり。
 今まで存在自体を黙殺されてきた私ではあるが、集族の人間であることに変わりは無く、しきたりは守られねばならない。
 要するに、だ。
「ばけものを人間だと認めたくないだけなのだな」
 闇の中ぼそりと呟いた。
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